みなさんこんにちは!
今回は、電気で発生する過渡現象について書きたいと思います。
できるだけわかりやすいように説明しましたので、皆さんのお役に立てると幸いです!
目次
1.過渡現象って何?
2.どうして過渡現象を学ぶ必要があるのか
3.過渡現象解析の例①RL直列回路の過渡現象
4.過渡現象解析の例②RC直列回路の過渡現象
5.時定数とは?
6.まとめ
1.過渡現象って何?
そもそも過渡現象って何なのでしょうか?
簡単に言えば、「入力を切り替えた時、それに対する反応(出力)が少し遅れるよ~」っていう現象です。例えば車を運転しているとき、急に人が飛び出してきたとしますよね。理想としては、一瞬で停車して危険を避けることですが、実際の運転ではそうはいきませんよね。目で認識して、体が反応してブレーキを踏んで、制動距離があって・・・等いろいろな原因で、目で認識してから実際に停車するまで時間がかかりますよね。
電気も同じで、スイッチを入れたからって急にオームの法則の通り電流が流れるわけではないし、電圧を変えたからと言って瞬時に電流がオームの法則のとおり流れるわけではありません。
下記に、スイッチを切り替えた時の過渡現象について書きましょう。
・スイッチを切り替えた時の過渡現象
例えば、下記のような直流回路図があったとします。直流の方がわかり易いので、今回は直流電源に接続した回路を取り上げます。

図1 RL回路図
図1では、電流はi(t)と示してありますね。これは、電流が時間の関数という意味ですが、基本的に、この直流回路に流れる電流のグラフは変化しない、下記のようになると習っていると思います。

図2 一般的な直流電流のグラフ
直流電流ですから、時間がたっても電流値は変化しない、これが直流回路の理論でした。
しかし、厳密にはこれは間違いです。実は、スイッチが入ってから図2のような一定の電流値になるまで少し時間がかかるんです。人間も車の運転をしていて信号が赤から青に切り替わったとき、即時出発するのではなく、反応したりアクセルを踏むのに少し時間がかかったりしますよね。これと同じで、電気回路も、スイッチが入ってから電流値が一定するまで少し時間がかかるのです。これをグラフにすると、図3のようになります。

図3 スイッチを入れた直後の電流値
黄色い破線までは、電流が安定していないことがわかります。もし仮にこれが交流回路であれば、きれいな正弦波になるまでに時間がかかるということになります。
この、電流値が安定するまでの電流が安定していない状態を過渡状態といいます。また、電流が安定した状態を定常状態といいます。
ちなみに、今回は過渡状態の例として電流がだんだんと増加していくものを示しましたが、この電流値の変化の仕方は接続する素子によって異なってきます。
過渡状態の時間は、実は何ミリ秒という非常に短い時間で、人間にはほとんど認識できません。よって、回路理論の計算では過渡現象を無視することが多いのですね。
2.どうして過渡現象を学ぶ必要があるのか?
先ほど、回路理論では過渡現象が無視されることがあると書きました。では、なぜ過渡現象を学ぶ必要があるのでしょうか。いくつか挙げてみましょう。
実は、何ミリ秒という時間は、人間にとっては一瞬で短い時間ですが、電気的には十分長い時間です。このことが様々なことを引き起こすと考えられています。いくつか挙げてみましょう。
・機器の故障を引き起こす
電気機器が最も故障しやすいのは、スイッチを入れた直後といわれています。これは、まさに過渡現象によるものです。
電気機器は、電流が安定しているときはあまり壊れることはありません。ただし、過渡状態にあるときは電流値が変則的なので、電気機器は壊れやすくなってしまいます。よって、過渡状態の時間を把握する必要があります。
・スイッチの遅延の原因になる
手動のスイッチもありますが、多くの電子機器では半導体を用いてスイッチの入り切りを行っています。これは、半導体素子に流れ込む電流やかかる電圧によって制御されます。半導体素子に過渡現象がおこれば、スイッチの切り替えも遅れますから、遅延につながります。
このように、過渡現象とは様々な不都合を引き起こす原因になるのですね。ただ、過渡現象を数学的に解析することで、これらをうまく処理をすることができます。これが、過渡現象を学ぶ意義です(*^^*)
3.過渡現象解析の例①RL直列回路の過渡現象
RL直列回路の過渡現象 では、過渡現象解析の例として、RL直列回路を取り上げてみましょう。回路図はページ上部の図1のものを使いましょう。この回路のスイッチSを入れた直後、電流i(t)はどのように変化するかを見てみます(*^^*)
先に結論を言えば、電流値ははじめ徐々に上昇していって、ある程度時間が経過すると、一定の電流値で安定します。
3-1.インダクタンスおよび抵抗における電圧降下
ここで、インダクタンスについて復習しましょう。インダクタンスとは、導線がコイル状に巻かれた素子で、交流電流が流れた際には逆起電力を発生させますが、直流電流に対しては逆起電力は発生しないため、電圧降下が発生しないのでした。つまり、直流電流は理論上ではある一定値で流れる、というわけです。理論上では。
ここで、電流i(t)を用いて インダクタンスLに発生する電圧降下VLを表現してみましょう。

電流i(t)を時間で微分すればよかったのでした。念のため抵抗Rに発生する電圧降下VRは、オームの法則から電流と抵抗の積ですから、下記のようになります。

3-2.キルヒホッフの電圧則から回路方程式を立てる。
では、図1から、回路方程式を作りましょう。ここで、キルヒホッフの電圧則を使います。キルヒホッフの電圧則とは、「閉回路内の電圧と電圧降下の総和は0」というものでした。
キルヒホッフの法則については下記の記事で詳しく解説していますので、よかったらご覧ください(*^^*)
電源電圧Eを正方向とすると、電圧降下は負方向ということになりますから、下記のような式が成り立ちます。
移項すると、下記のようになります。
先ほど求めた電圧降下の式を代入しましょう。
これで、回路方程式の完成です。
3-3.回路方程式を解く。
この式は、微分を含んでいるので微分方程式です。この式をラプラス変換してみましょう(^^♪

ここで、i(0)は初期値を意味していますが、図1の回路では、スイッチを入れて初めて電流が流れ始めるので。初期値は0です。
では、続きを計算します。

ここで、部分分数分解をします。部分分数分解については、下記の記事で詳しく書きましたので、よかったら見てみてください(*^^*)
では、計算していきます。

これをラプラス逆変換してi(t)を求めると、下記のようになります。

これで、電流の時間関数i(t)を求めることができました(^^♪
3-4.RL回路の過渡現象についての解説
先に求めた関数のグラフを描いてると、先に示した図3のようなグラフになります。念のため、もう一度図3を載せましょう。

図3(再掲載)
インダクタンスは、交流、つまり大きさが変化する電流に対して電圧降下を発生させる素子です。
図1の回路図で、スイッチを入れたばかりのときは、車が急に発信できないのと同じように電流も上がりきっていません。つまり、この過渡状態の間は、電流値が交流のように変化していることとなります。このことから、過渡状態においては、インダクタンスに流れる電流は変化しているのですね(*^^*)
また、先ほど求めたi(t)を見てください。

右辺第二項の指数関数がありますよね。この指数の部分でtの係数の逆数を、時定数τといいます。時定数については、後程詳しく書きますね(*^^*)
4.過渡現象解析の例②RC直列回路の過渡現象
では、今度は抵抗RとコンデンサCが直列に接続された図4のような回路を見てみましょう(^^♪

図4 RC直列回路
結論からいうと、コンデンサを流れる直流電流は、定常状態になると0[A]になります。これは、コンデンサは直流電流をシャットアウトするという特性からもわかります。
4-1.コンデンサによる電圧降下
コンデンサとは、誘電体を挟んだ2枚の平行平板で構成されています。はじめ、電流は抵抗Rを通ってすべてコンデンサに流れ込んできます。すると、コンデンサには電荷がたまっていき、やがて平行平板間に電位差Vcが発生します。これがコンデンサによる電圧降下です。コンデンサの平行平板間の電位差Vcが電源電圧Eと同じになると、コンデンサは直流電圧をシャットアウトします。
交流であれば、電流値が変化するので、電流の方向が変わった際にコンデンサにたまった電荷を放電することができますが、直流ですとずっと一方向にしか電流が流れませんので、ずっとVc=Eの関係が持続しますので、この結果、流れる電流は0[A]で安定します。
また、キャパシタンスCはコンデンサの電荷を貯めこめる容量を示しているので、この値が大きいほど多くの電荷を貯めこめるので、平行平板間の電位差は広がりにくくなります。
このことを踏まえて、Vcを式に表すと、下記のようになります。

4-2.キルヒホッフの電圧則から回路方程式を立てる。
では、3-2のときと同じように、キルヒホッフの電圧則をもとに回路方程式を立てましょう。方程式は下記のように立てることができます。

この方程式は、積分が含まれているので積分方程式です。
4-3.回路方程式を解く
では、実際にこの方程式を解いてみましょう。積分方程式といえども、ラプラス変換を使えば微分方程式と同じ要領で解くことができます。ラプラス変換を使わないのであれば、両辺微分して微分方程式に直す必要がありますね。筆者は微分方程式が苦手なので、今回はラプラス変換を使用することにします。
方程式を両辺ラプラス変換すると、下記のようになります。

では、この式を解いていきましょう。

これで、I(s)が求まりましたので、これをラプラス逆変換すると下記のようになります。
これで、電流の時間関数i(t)を求めることができました。この関数のグラフを描いてみましょう。

図4 RC直列回路の電流i(t)
図4を見ると、コンデンサに最初だけ電流が流れますが、定常状態になると電流は0[A]となっていることが確認できました(*^^*)
また、先ほど求めた関数i(t)の式の指数関数で、赤く示した部分に注目してください。この分数の逆数はRCですが、これを時定数と呼びます。時定数については、次の項で詳しく書きます。
5.時定数とは?
RL直列回路およびRC直列回路の電流値の計算において、指数関数の指数のうち、tの係数の逆数を時定数といいました。一般的にはτ(タウ)で表されます。
では、時定数とは何でしょうか?簡単に言えば、過渡状態がどのくらい長いかを表す指標になります。
◆RL直列回路の時定数
ここで、RL回路の場合について説明しましょう。図5を見てください。

図5 RL直列回路の時定数
これは、先ほど示した図3を少し加工したものです。黒の点線で示した値は、定常状態での電流値です。インダクタンスは、直流に対して電圧降下を発生させませんので、抵抗Rを流れる電流値と同じになりますね。
RL回路の場合、時定数τは電流i(t)が定常状態の電流値の約63%に達する時の時間を示しています。
・どうして63%なのか
では、どうして63%なのでしょうか。ここで、RL直列回路に流れる電流の時間関数i(t)にτを代入してみましょう。

ここで、eの-1乗は(エクセルさん曰く)0.36789441ですから、これを式に代入しましょう!

はい、出てきました。ということで、電流の関数に実際に時定数τを代入してみると、定常状態の電流の約63%になることがわかりました!「中途半端な値だな~」と考える方もいるかもしれませんが、時定数は電流の関数の式を見れば一瞬で分かることから、とても見つけやすいというメリットがあるので、多めにみましょう(笑)
ちなみに、この数字は覚える必要はありません。時定数が、指数関数のtの係数の逆数であることと、RL直列回路の場合、その時の電流値は大体定常状態の6割くらいってことだけ覚えておきましょう(*^^*)
・時定数からわかること
また、時定数からRL直列回路の場合、時定数の分子はインダクタンスLで、分母は抵抗Rです。このことから、インダクタンスLが大きくなるほど長くなり、抵抗Rが大きくなるほど短くなることがわかります。
◆RC直列回路の時定数
では、RC直列回路の時定数について書きます。図6を見てください。

図6 RC直列回路の時定数
はじめに、電流i(t)の変化の仕方を確認しておきましょう。図2の回路を流れる電流i(t)は、一瞬だけ電流が流れますが、時間が経つごとに下がっていき、定常状態になると電流i(t)は0になります。
よって、RC直列回路においては、時定数τはコンデンサを流れる電流i(t)の値がt=0の時の値の約37%に下がるまでの時間を示しています。
・なぜ37%なのか

先ほども記述した通り、eの-1乗は0.36789441ですので、下記のようになります。

よって、電流i(t)はt=τ=CRのときに、初めにコンデンサに流れる電流の約37%になることが確認できました(*^^*)
・時定数からわかること
RC直列回路に流れる電流i(t)の時定数τは、キャパシタンスCと抵抗Rの積であることがわかりました。よって、これらの素子がそれぞれ大きくなればなるほど、時定数τは長くなっていくことになります。
◆時定数の役割
時定数は、過渡状態の時間が長いか短いかを知るための目安になっています(^^♪つまり、時定数が大きければ大きいほど、過渡時間が長いと判断されるわけですね!
実際、定常状態になる時間を電流の式からは一目でわかりませんので、このような時定数で表した方が便利というわけです。
6.まとめ
・過渡現象とは、電気回路や半導体素子などが「入力に対して反応が遅れるよ~」という現象である。
・過渡現象は、機器の故障やスイッチングの遅延などの不都合を引き起こすことがある。
・回路の過渡現象は、微分方程式を解くことで解析できる。
・過渡状態の時間の長さを知る指標として、時定数がある。時定数は、電流の時間関数i(t)の中の指数関数の指数の逆数である
今回の記事は、以上です(*^^*)
もし、わからないことやもっと知りたいことなどがあれば、お気軽に質問してくださいね(^^♪
この記事が皆さんのお役に立てれば幸いです(^^)/